秘密の特訓。
恋人は、ここのところ、ものすごく働いている。
朝5時に家を出て、帰ってくるのは、夜10時を過ぎる。
そんなに働いたら、また胃腸かぜになっちゃうよ?
からだ、弱いんだから。
と言ったところで、彼もすきで働いているわけではないので、
わたしはただ、アサヒスーパードライを冷蔵庫に常備しておく、
ということくらいしかできない。
でも、恋人がふとんに入っていると、
わたしはかまいたくて仕方なくなるのだ。
たとえ、恋人がすいこまれるように眠りにおちるのだとしても。
わたしは、眠りかけた恋人に、いつもの質問をなげかけた。
「めざましかけたの?歯はみがいたの?」
すると、
恋人は、半目を開けて、首をふるわせながら、
腕を動かし始めた。
まるで、何かにとりつかれたような動きだ。
ものすごく気持ち悪い。
どうやら、めざましにしている携帯電話を探しているらしい。
しかし、携帯とは、あまりにかけはなれた場所で、
何かをつかもうとする動きをしているので、
さすがにこわくなって、携帯電話を手渡してやった。
すると、今度は、目を半開きにし、
鼻の下を思いっきり伸ばして、
まるで、脳天とあごをひっぱられたみたいな顔をして、
時間をセットし始めた。
別に、そんな顔を作らなくても、めざましのセットはできるだろうに。
それが、あまりにもぶさいくな顔だったので、
「ねえねえ、その顔は何?」
ときいてみたら、彼は、なんと、こう答えた。
「おじーちゃんの練習。」
なにー!?
まだ26歳なのに?
何十年後に備えてんの?
何のために??
「あのね、きみはいつか絶対におじーちゃんになるよ。
だから、練習しなくても大丈夫だよ」
と、おしえてあげたら、
恋人は自分のねぼけた発言の整合性のなさに、
ふつうに笑っていた。
どうやら、めざめたらしい。
寝起きで笑えるなんて、しあわせなことじゃないか。
翌日、彼が覚醒しているときに、
「おじーちゃんの練習」発言について、問いただしてみた。
一体、おじーちゃんになるために、何を練習していたのか。
しかし、彼は何をしようとしていたのか、
一切覚えていないらしい。
むー、こんなことなら、その場できいておくんだったなー。
- 関連記事
-
- 朝のあそび。 (2008/05/16)
- うそつきな恋人。 (2008/03/12)
- 秘密の特訓。 (2008/02/28)
- ささやかな抗争。 (2008/02/23)
- 再び胃腸かぜの疑いのある恋人。 (2008/02/09)