江國香織 「流しのしたの骨」
ひさしぶりに読んでみたけど、
やっぱりこの本は、いい。
一度読み終えてから、その余韻をひきずりたくて、
もう一度読み返した。
ある家族の物語。
家族の行事、家族の関係、ふつうの家族の日常。
それなのに、江國香織が書くと、
どうしてこんなにもきらきらしてるんでしょう。
この作品のとてもよいところは、
こと子の両親が、ちゃんとしたしつけのルールを持っていて、
なおかつ、こどもたちの意思を尊重しているところ。
たとえば、ちいさな弟の律が、
(おそらくえっちな)フィギュアをつくっていることも、
「校則に反していない」
という理由で、認めていたり、
こと子が高校を卒業しても、働いていないことも、
「二十歳になるまでは扶養義務があるから」
と、自由にさせていたり。
現実の世界では、こうはいかない。
親だって、人間ですもの。
この本のなかで、わたしがいちばんすきなのは、
断然深町直人で、
わたしの理想の恋人は、彼なのだ。
よく笑い、スキーがすきで、とてもやさしく、
冷蔵庫色の服を着ている深町直人。
だから、恋人には、深町直人のようになるべく、
いろんなこまかいリクエストをしているのだ。
恋人的には、いい迷惑だろうとおもうのだけれど。
この作品のなかには、「これ、いい!」
と思うディテールが多すぎる。
たとえば。
こと子たちがおでかけする喫茶店のこと。
フルーツパーラーとか、「櫻子」っていう和風のカフェとか。
これを読んで、ぜひフルーツパーラーに行きたい、
そして、ぷりぷりしたグレープゼリーを食べたい!
と思うのだけれど、
フルーツパーラーって、ありそうでないじゃない。
和風のすてきなカフェも、都会の中心部には、
ありそうで、ないのだ。
たとえば。
こと子が、深町直人と手をつないで食事をするために、
右手をスカーフで吊って、
左手だけで食事をしようと練習するところ。
手をつないで食事をするためだけに、
四ヶ月も練習するなんて、すてきすぎる。
映画なら、最初から最後まで手をつないで見たことはあっても、
食事はさすがになかったので、
「あー、いいなー」
と思ったのだ。
いちばん印象的だったのは、
こと子の
「そろそろ、肉体関係を持ちましょう」
というセリフ。
これをさらりと、自然に、しかも効果的に言うのは、
至難の業でしょう。
でも、肉体関係、という言葉の響きの硬さは、
なかなかに新鮮だなと思った。
もし、自分がおかーさんになるのなら、
宮坂家のおかーさんみたいなひとになりたいです。
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