恋人のえさぶくろ。
恋人は、異常に細く、とっても小型である。
どのくらい細いかというと、体重が41キログラムしかなく、
ズボンを買うときは、レディースのいちばん細いサイズを買う。
栄養失調ではないか、と心配してしまうほどだ。
だから、わたしが彼の家に居候するにあたり、
「少なくとも3キロは太らせよう」
という野望があった。
さて。
あれから数ヶ月がたち、わたしは恋人にたくさん食べさせた。
植木に水をやるように、
「たくさんお食べー」
と食べさせた。
甘いものは口にしなかったのだが、わたしが
「お食べー」
と無理やり食べさせて、ちょっとだけ食べられるようになった。
そんなわたしの努力が実ったのか、
ある日、恋人のほっぺたが、ややぷっくりしていることに気がついた。
以前は、ほっぺたがやせこけていたのに、
今は、ちょっとつまみたくなるくらいにやわらかそうになっている。
やった!わたしの「お食べー」作戦が功を奏したのだ!
わたしは、にやりと笑いながら恋人に鏡を見せた。
「ねーねー、ちょっとほっぺたがぷっくりしたと思わないー?」
と聞くと、恋人は、
「うおー」
と言った。どうやら本人も、そう認めざるを得なかったようだ。
が。
彼は、次に、こう言った。
「別に太ったわけじゃないよ。
これは、えさぶくろなの。」
…やっぱり恋人は人間じゃなかった。
だって、ふつうの人間は、えさぶくろなんて持ってないもん。
どうしてえさぶくろにえさを蓄えているのかきいてみたところ、
「ちょっとずつ食べて、おなかがすかないように」
と言っていた。
もうちょっとひねってくれよ。
もし、だれかに、
「ちょっと顔、太った?」
と言われたら、
そのときには、恋人の「えさぶくろ」をぱくってみてください。
意外と使えるかもよ。
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