ABSOLUTE LIFE

すてきなものにかこまれ、すてきな音楽をきき、すてきなものをたくさん見ることが、心のビタミン補給です。
0

東野圭吾 「変身」 

ものすごくシンプルなこのタイトルは、
この作品の主旨を非常にわかりやすく表現しています。
これまたおもしろくて、通勤時間の憂鬱を吹っ飛ばしてくれました。



ある日突然事件に巻き込まれ、脳を損傷してしまった主人公。
そこへ、世界ではじめての脳移植が実行されることになった。
だが、彼は、自分の性格が、徐々に変化していることに気づく。
本当の自分が消え、他人の脳に自分が支配されていく恐怖が、
彼を取り囲む人々のメモ、日記などを交えて描かれています。

そんなー、ありえないでしょー、
というような設定も、
ものすごく説得力のある展開になってしまうのは、
このひとの力量のすごさだ。
フィクションだとわかっているのだけれど、
どきどき、はらはらしてしまう。

自分が、自分の意志に反する行動をとってしまう、ということは、よくある。
本当はこうしたかったのに、と思っても、そうできなかったり。
でも、この作品で主人公が味わう感覚はそれどころではない。
趣味、信念、思考、などなど、
脳を通した自分のすべてが、別の人間のものに変化していくために、
生活や世界が、一変してしまうのだ。

変身、ということばをきくと、
見た目が劇的に変わることを想像するのだが、
たとえ、肉体的な変化がなかったにせよ、
中身が変わってしまったとしたら、
それは、肉体的変身以上の恐怖なのだろうと思った。

主人公は、移植された他人の脳に支配されていることを認識して、
それでも、必死に自分を守ろうと努力する。
そのときに発したセリフのなかに、忘れられないものがあった。

「生きているっていうのは、単に呼吸しているとか、
 心臓が動いてるってことじゃない。
 それは、足跡を残すってことなんだ。」

何のために生きているんだろう、ということを、
恐らくほとんどのひとが自問自答した経験があると思うのだけれど、
そういうことだったのか、と思った。
わたしたちは、それぞれのやり方で、自分の生きた証を残しているのだ。
それは、作品として、何かを残す、ということもそうだし、
自分が大切にしたいひとたちの心のなかに、思い出を刻むこともそうだ。
自分が生きた歴史は、確実に自分以外の場所に残る。
だからこそ、不本意なことはしたくない。
自分が心から望んだ足跡をつけなくてはならない。

今までにはない新しい視点から、
「生きる」
ということを考えさせられるすごい作品でした。

映画化もされているようですが、見たいような、見たくないような…。
この主人公の変貌ぶりを映画で表現するのはむずかしいだろうなー。
見た方、いらっしゃいましたら、感想をおしえてください。

関連記事

Category :
該当の記事は見つかりませんでした。

Leave a reply






管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

trackbackURL:http://absolutelife25.blog36.fc2.com/tb.php/537-6cc23724