かっぱになるかもしれない。
高橋歩のトークライブへ行った日、
恋人はめちゃくちゃ体調が悪かった。
そのせいで、イベントもあまりたのしめなかった模様。
珍しく、ごきげんななめだったが、
そんなことはおかまいなしに、いろいろ連れまわした。
かわいそうに。
彼の体調不良の原因は、なんと、インフルエンザだった。
激しい頭痛、悪寒、倦怠感により、
布団でまるくなっているしかなかったようだ。
そんな夜、恋人がわたしの頭上で彼の手のひらをすべらせながら、
(つまりは、わたしの頭をなでながら)
ゆっくりと、何度も
「かっぱになーれ、かっぱになーれ」
と、呪文のように唱え出した。
唐突なおまじないに、わたしは目が点になった。
それ、わたしへのしかえし?それとも呪い?
もしくは、インフルエンザで脳までやられたのかよ。
とりあえず、彼の言葉は日本語だったのに意味不明だったので、
その真意を理解しようとわたしはがんばった。
「本当に、わたし、かっぱになったほうがいい?」
と聞いてみると、
「だめ」
と言う。
そりゃそうだ。かっぱとは暮らせないよな。
「じゃあ、なんなの?」
ときくと、恋人は、にたり、と笑うのみだった。
とりあえず、特に深い意味はなく、
思いつきのみで発したことばだったらしい。
でも、突然そんなことばが出てくるからには、
彼の脳の片隅に、その呪文がインプットされていたことはまちがいない。
一体どんな思い出とともにインプットされていたのか、
知りたいような気もするが、知りたくないような気もする。
とりあえず、恋人から
「かっぱになーれ」と言われた女は、
恐らくわたしくらいしかいないだろう、ということと、
その何気ない一言だけで、
「ほんとにかっぱになっちゃったらどうしよう」
というささやかな恐怖感を味わったことは、まちがいなく本当だ。
その夜以来、わたしは恋人のことを「かっぱちゃん」と呼び、
これはなかなか重宝している。
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