然別湖の「いさを」。
恋人が帯広に降り立った。
今回、恋人が帯広に来るということには、大きな意味がある。
最大の目的は、北海道最大の花火大会を見に来ることであるが、
そのほかに、わたしの両親に彼を見せることにもなっていた。
ほんの短期間ではあるけれど、来月からいっしょに住むことになるのでね、
見せておいたほうがよいと思って。
母は、会いもしないうちから、恋人について相当不信感を持っていたので、
いっしょに住む前に、それを払拭する必要があった。
名古屋からの飛行機で降り立った恋人を見て、
あまりのミニチュアぶりに、母は「ふふん」と笑った。
自分だって、ちっちゃいくせにさ。
わたしが彼のおもしろい話ばかりをかいつまんでしていたので、
きっと母は、彼をめちゃくちゃな奴だと思っていたにちがいない。
が、予想に反し、彼は必要以上に気を使うことなく、堂々としており、
会話もきちんとできる奴だったので、母も一応、心を許したようであった。
と、思っているのは、わたしだけなのかもしれぬが。
空港からピノキオという洋食屋さんへ向かい、ランチをいただく。
わたしがトイレに立った隙に、母は、
「あのこ、料理もそうじも、本当になーーーんにもできないよ、
本当に、本当にいいの?いいの?」
と恋人に入念な意志確認をしていたらしい。
おいー。親が子供を蔑むなよ。
夏まっさかりの週末だったので、かなり待たされたが、
とてもおいしいオムライスとパスタをいただいた。
おかーさん、でかした。
おかーさんが、意外にも
「どっか連れてってあげる」と言い出した。
たぶん、恋人について、それほど悪い印象はもっていないらしい。
そんなわけで、然別湖へのドライブが決定。
ありとあらゆる乗り物の中で眠りこけていた恋人は、
さすがにこの日は眠らなかった。
母に気を遣っていたらしい。
なんだ、やればできるじゃん。
わたしには完全に油断してるってことか…。
約1時間半ほどの道のりを経て、トンネルを抜けると、
目の前に、穏やかな湖面がひろがる。
わたしが写っている写真の奥に見える山は、
唇の形をしているので、「くちびる山」といいます。ひねりゼロ。
遊覧船や、ボートに乗って、その山に漂着し、それを登ると
ナキウサギに出会うことができるのです。
(ナキウサギとは、耳が短くて、文字通り鳴くうさぎ、ね)
今回はその山には行かず、湖畔をうろうろ。
いやー、こういう田舎観光スポットって、笑いどころ満載だよね。
おかーさんが、
「足湯があるんだよ」
というので、「わーい」と足湯に向かい、そろりとお湯に手を入れると、
「熱っっっっ!!!」
異常に熱い。足を入れてる場合じゃない。
恋人と、その尋常じゃない熱さに笑った。
さらに、先ほどの遊覧船のお尻を見たら、船の名前が書いてあった。
…い、いさを…。
なんて、渋くで、ワイルドで、大和魂な名前なのかしら。
あまりのかわいらしさに、わたしたちは笑いころげた。
「だってさ、「いさを」の「を」は、くっつきの「を」なんだよー」
と、恋人は何度も説明してくれた。そこにはまったらしい。
知ってるってば。
その後、帰り道の途中でも、わたしたちは「いさを」にこだわっていた。
「いやー、然別湖にいさをに会いに行ったんだね」
「誰が、いさを、ってつけたんだろね」
と、「いさを」を連発して、帯広に帰ったのでした。
- 関連記事