宮本 輝 「幻の光」
わたしはあまり男性の作家の本を読みません。
状況の描写が直接的だったりして、
なんとなく、読んでいて「うがー」と思う部分が多いのです。
というわけで、久々に男性作家の作品を読んでみることに。
このひとと、伊集院静というひとの本は、
文体が穏やかで、安定していて、わりと読みやすく、
系統的には似ているなあ、と思います。
この本には、いくつかの短編が収められているのですが、
やっぱり印象的だったのは、
表題作、「幻の光」ですね。
映画化もされました。
タカシさんのブログで映画のレビューの記事がありましたよ。
ストーリーとしては、
主人公の女性が、過去の夫の思い出を淡々と語っていくというもの。
主人公のだんなさんが、自殺をしてしまうのですが、
その理由、原因が、どうしてもわからない。
主人公の女性は、ずっと心のなかでだんなさんに話し掛けながら、
その理由をさがしつづけているのです。
このお話を読んでいると、
今、という時代は、小さなことに対しても敏感すぎて、
どんどん生きにくい世界をつくっていってしまっているのだなあ、
と感じました。
個人情報保護、とかいって、へんな秘密主義社会になってしまったり、
アンチエイジング、とかいって、へんな抵抗をしてみたり、
負け組み、勝ち組みとかいって、変なプライドを植え付けられてしまったり。
「生きる」ということは、もっとシンプルで、
単純でいいのになあ、と思った。
健康で、自分の周囲のひとたちを大切にして、
日々をきちんと暮らしていることだけで、
十分にしあわせなはずなのに、
現代には、それを忘れさせてしまうものが多すぎる。
読んでいて、心がしめつけられる部分があったので、
何度もリピートしたい!という作品ではないのですが、
読んで損はない作品です。
きっと心にうったえかけるものを発見できるでしょう。
そんなわけで、
この作品の映画をみたいー。
今度ビデオでも借りてくるようにしよう。
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