合同企業説明会。
ある日、会社に行くと、突然上司に
「おい、出張の話、きいてるか?」
と言われた。
いえ。全然きいてません。
詳しく話を聞くと、数日後に合同企業説明会があり、
札幌まで学生を漁りに行くので、いっしょに行きなさい、
というものだった。
上層部のおぢさんたちが、皆わたしをプッシュしたらしいのだ。
わたしの頭は大量の疑問符で埋め尽くされた。
総務部所属じゃないのに、なぜ?
こんなに突然すぎるのは、なぜ?
まだ、入社して1年しか経ってないのに、なぜ?なぜ?
でも、明らかにいつもの自分の仕事よりはたのしそうだし、
会社のお金で札幌に遊びに行けるし、
数年前、足しげく通った説明会に、逆の立場で参加できるなんて、
こんな機会はめったにない。
「行きます、宜しくお願いします」
と即答した。
いっしょに行くことになった総務部長は、
「たぶん、うちのブースには、全然学生はこないから。
男の子3、4人と、女の子をひとりかふたり、
一本釣りするみたいなかんじで。」
と、超軽い。
「何をすればよいのでしょうか」
と聞いても、
「まあ、当日ちょっとだけ打ち合わせをすれば大丈夫でしょう。」
で終わってしまった。
学生のときの気持ちが、まだ鮮明に残っているわたしとしては、
「企業の説明会に対する気合いって、こんなかんじなのかー」
と、やや拍子抜けであった。
わたしは朝の5時過ぎに起床し、朝一のJRに揺られて札幌へ向かった。
タイミングの悪いことに、出発の2日前、退職する旨を伝えたため、
(本当は、出張後に言うつもりだったのに、
どうしても言わざるを得ない状況に追い込まれてしまったのだー)
「気まずくなるかもしれぬ。」
と覚悟はしていたのだが、
その総務部長はとてもすばらしいひとで、
わたしのことを責めることもなく、
退職の理由を根掘り葉掘り聞き出そうとするわけでもなく、
ひたすらたのしいおしゃべりで、時間が過ぎていった。すてき。
さて。
会場について、適当に準備をしたところで、説明会はスタートし、
学生たちがなだれこんできた。
全然来ないだろうと予想していたのに、わたしたちのブースにも、
意外にたくさんの学生が集まってしまった。
総務部長は、力がちょうどよく抜けた自然体なのに、
仕事になると、びしっと決まる。
あんなに軽かったのに、学生たちの前に出ると、
会社の魅力、業種全体の動向、地元の特性などを恐ろしく流暢に語り、
現従業員であるわたしまで、会社をますますすきになってしまった。
すばらしい。周りからの人望が厚いのも納得。
わたしはただ隣でにこにこしながら、話を聞いたり、
余談に走る部長につっこんだりしていたのだが、
ひっきりなしに学生がやってきて、トイレに行く暇もないほどだったので、
交替でちょっとずつ休憩を取ることにした。
まあ、わたしはいてもいなくてもどっちでもいいのだが、
部長がいない間は、わたしが学生たちの相手をしなくてはならない。
最初のうちはぼろぼろだったわたしの説明も、
横でずっと部長の話をきくうちに、要領がなんとなくわかってきて、
最後には、ひとりで会社の説明、仕事内容の説明をし、
さらには、学生たちの質問にもちゃんと答えられるようになっていた。
すごいぜー。こんなに適当だったのか、会社の説明会って!!
学生時代を含め、ずーっと接客の仕事しかしたことのなかったわたしが、
1年間事務系の仕事をしていたので、
ひとと会うことに飢えていたのだろう、
学生たちとコミュニケーションをとることが、
たのしくてたのしくて仕方がなかった。
11時から17時までのあいだ、休憩もほとんど取らなかったのだが、
本当にあっという間に時間が過ぎてしまい、
終わりの方は、「もう終わりかー」と、がっかりしてしまったほどだった。
前の仕事で、
「わたしは完全に接客に向いてない」
と思っていたのだけれど、全然そうじゃなかった。
お休みしたことで、改めて気づくこともあるのだ。
たまに立ち止まってみるのも、悪くない。
就職活動は、なかなかにきびしかったけれど、
結果的には、ちゃんと自分の入るべき会社に入るものなのだ、と思う。
不採用になるのは、自分の魅力が足りないからではなくて、
そこよりも、もっと自分に適したいい会社があるからなのだ。
あと数ヶ月後、わたしはまた新たな仕事を探すのだけれど、
それを忘れないようにしようと思う。